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2008年 10月 10日 ( 2 )

【小説】 深緑の森 5

「ウォルフ!」

叫び声に三人が驚いたように振り返る。

尋常ではない様子で立ち尽くしているアラバマが、その手に握っているものを見たウォルフは

「ほう」

と言うとみるみるその姿を恐ろしい化け物へと変えた。

悲鳴があがり他の家族が飛び出してくる中、怪物がそばに居たケイに襲いかかる。突き倒したケイの胸に前足を乗せて、ウォルフは吼えるように笑った。

「おまえに俺が殺せるのか アラバマ」

挑むようにそう言ってケイの喉元に牙を向けた時、アラバマが飛びかかって聖水をぶちまけた。

怪物は撃たれたように弾き飛ばされ、凄まじい咆哮をあげながら地面へと倒れた。


アラバマは、苦しげに呻く怪物のそばへゆっくりと近づいて行った。

横たわり虫の息で浅く呼吸をするウォルフを立ったままじっと見下ろす。

その時、彼女は初めて自分を見上げる怪物の目が深い緑色だと気づいた。

深緑の瞳の中に自分が映っている。
まるで森の中にいるように。
アラバマは崩れるように膝を付いた。
いつも見守っていてくれたのはこの眼なの?
小さな私が唯一安心できる深緑の森はこの瞳の中だったの?

「おまえを連れて行く気は無かった。途中の村のどこかで置き去りにするつもりだったんだ」

苦しそうにうめきながらウォルフが言った。

「だが おまえが離れなかった。置いて行こうとしても泣きながらしがみついてくるんだ」

怪物の口から血が溢れ出し
座り込んだアラバマのスカートを赤く染めてゆく。

「怖がらせるために腕に咬み付いたのに、それでもおまえは泣きながら咬んだこの私にすがりつくんだ」

そう言って、笑っているのかうめいているのかわからないような声を漏らした。

「馬鹿な人間の子供だ」

そして怪物は、静かに深緑の眼を閉じた。

                    ж

「あなたのご両親は あまり良い親とは言えなかったの」

セスが抱えるようにしてアラバマを家の中へ連れて行き、母親が暖めたミルクを差し出しながら言った。

「子供に関心がなくて・・・。まだ若かったし・・・自分達だけで遊び歩いていたようだった」

アラバマはペンダントの蓋を開けて中の写真をじっと見つめた。

「まだ小さかったあなたを一人ぼっちで家に置いて、よく二人で出かけていたの。そして」

言いにくそうにアラバマの首の辺りを見ながら

「鎖か何かでつないでいたようだった。私達は子供を手放すようにあの二人に何度も言ったのよ」

子供部屋の箪笥の上にあった首輪と鎖を思い浮かべる。あれは犬を飼ってたわけじゃなく私を繋ぐ為のものだったのだ。この首の痣はウォルフが繰り返し話していたような理由でついたのではなかった。

「父親の方は暴力を振るっているようだった。よく子供の泣き声がしていて・・・」

写真の二人は幸せそうに笑っている。
でもそこに自分は写っていない。
私は虐待され 放置された子供だったのだ。

そしてある日人狼の群れがやってきて、犬のように鎖につながれた子供を見て気の毒に思い、殺さずに連れて行った。小さな私は怪物にまで同情されるような人生を送っていたのだ。

「その首の痣は私がお前をさらった時につけたものだ」

何度もそう私に言い聞かせていた深緑の眼をしたウォルフ。

腕にこんなに酷い傷が残るほど咬まれたのにそれでも化け物にしがみついた私はどれほど愛情に飢えていたのだろう。

「あの日子供を殺さずにさらっていった人狼は群れから離れたようだったよ」

母親がアラバマをそっと抱きしめた。

「人間の子供、ましてや自分達を殺す事のできる祈祷の能力を持った子を連れて歩くなんて、他の仲間からは許されるはずが無かったんだろうね」


夢の中で懐かしい匂いに包まれていた時、ずっと欲しかったものが手に入った喜びでいっぱいだった。

ちっちゃな少女が欲していたもの 
それはほんの少しの愛情だった
それがたとえ怪物が向けた
ただの気まぐれ程度のものだったとしても

生まれてから一度も愛された事の無い子供が必死ですがりつくだけの愛を向けてくれたのは、世界中でウォルフただ一人だったのだ。

「さっきウォルフが帰ってきた時、あなたを置いて自分だけここを去ると言っていたのよ」

ケイが泣き腫らした目でアラバマを見た。

「あなたをよろしく頼むと言って出て行こうとしていたの」

あの森はこの世に存在しない森だった。

私が唯一安心できる深緑の森は 
怪物がゆっくりとその眼を閉じた時に
永遠に無くなってしまった

完              

               UO ウルティマオンライン
by keropu | 2008-10-10 18:33 | ■小説

【小説】 深緑の森 4

雑貨屋のドアの所にウォルフが立っているのが見える。

「大変!ウォルフが帰って来てる」

アラバマが慌てるのを見てケイが笑った。

「彼は随分過保護なのね。あなたと彼は うーん・・・恋人なの?」

思いも寄らない事を言われて呆然としていると「ああ 違うのね」
と言ってにっこりした。

「だってほら ウォルフって・・・ちょっと素敵じゃない?」

ぽかんとしてると、顔を赤らめたケイが急いで付け足す。

「セス兄さんも喜ぶわね 兄さんあなたのこと好きみたいよ」

アラバマは更に呆然としてその場に立ち尽くした。

                    ж

「何処に行っていた。うろつくなと言った筈だ」

「買い物に行っただけ」

凍り付くような視線を感じながら、俯いたままそう言うと、ウォルフが覆い被さるように屈んで耳元に口を寄せた。

「う ろ つ く な と言った筈だ」

その息からかすかに血の匂いがした。

                    ж

自分が約束を破ったせいでこの家族が襲われるかもしれない、と怯えながら数日を過ごしたが、何事も無く平穏な日々は続いた。

ある晩またウォルフが出かけて行き、少し落ち着きを取り戻したアラバマが皆と夕食をとっていると、思い出したようにケイが言った。

「この間アラバマに、この村が人狼に襲われた事があるって話をしたのよ。ほらあの気味の悪い屋敷の前を通ったから」

「たしか若い夫婦が住んでいたんだよな」

兄のセスが言った。

「小さな子供も居たんだよ」

父親が気の毒そうに頭を振った。

「へえ それは知らなかったな。その子も殺されたの?」

「いや 人狼の一匹に連れ去られたんだ。どの道すぐに食い殺されてしまっただろうがね」


その夜ベッドに入ってもアラバマは中々寝付けなかった。

(若い夫婦が住んでいた)
(あの屋敷の子供が人狼の一匹に連れ去られた)

先程の夕食の席での会話が何度も甦る。
ウォルフはこの村に来た時、あの屋敷を見てすぐに出て行こうとした。
まさか・・・・まさか・・・?


結局眠れないままうっすらと夜が明けてきた。
やはりどうしても確かめておきたい。

アラバマは、誰も起き出してこないうちにそっと家を抜け出して、朝霧の中をあの屋敷へ向かった。

                    ж

頑丈な蔦が絡まって開かなくなった門をよじ登り、処々雪の残った庭を横切って玄関のドアをそっと押してみると、ドアは蜘蛛の巣を壊しながらゆっくりと開いた。

家の中はめちゃめちゃだった。

人狼が暴れまわった為なのか。それとも長年空き家のうちに、目ぼしい物を盗みに入った泥棒の仕業なのだろうか。

何か自分と繋がる物、ペンダントの写真に写る二人が住んでいたと確認できるものさえ残っていれば。アラバマは広い屋敷の中にいくつもあるドアを次々と開けていった。


ここは子供部屋だ。
ドアを開けてすぐにわかった。

小さなベッドと箪笥がある。
床にちっちゃな靴下が片方落ちている。

犬を飼っていたのか、首輪と鎖が箪笥の上に置いてあった。
しかしその部屋は子供部屋というにはあまりに殺風景だった。
おもちゃも絵本も何も無い。
子供の成長してゆく写真の数々も1枚も飾られていない。

部屋を見渡しても、ここが自分の部屋だったという記憶は呼び起こされない。

仕方なく他の部屋を探す。


そこは夫婦の寝室のようだった。
ベッドは引き裂かれ中の綿が飛び出している。

足元にガラスを踏む感触を感じて目を落とすと、写真立てが割れて落ちているのを見つけた。拾い上げると、そこにはペンダントの二人が幸せそうに笑って写っていた。


やっぱりここは私の家だ。
この村は私の生まれ故郷だったんだ。

ウォルフがこの家で幸せに暮らしていた両親を殺し、小さい私を連れ去ったのだ。あの怪物さえ来なければ、ここで私はすくすくと普通の少女として育っている筈だった。それをあいつが全て奪い去った。怒りと悲しみで震えながら、もっと何か無いかと家の中を探し回った。


その部屋は一風変わった雰囲気に包まれていた。

奥には祭壇のようなものがあり、部屋の中央にある机には水晶玉らしき物が置いてある。壁には干からびたニンニクがぶら下がっていた。

ここも他の部屋と同じように荒されて散らかっていた。
床に凝った形の小瓶が割れて落ちている。
そばには動物の毛のようなものが沢山散らばっていた。

祭壇へ近寄ってみると、同じ小瓶がいくつか置いてあった。
どれも空だが一本だけ中身が入っているものがある。

手に取って中を透かして見ると、きらきらと光る粉が溶け込んだ透明の液体が入っている。

アラバマはそれを服のポケットに入れた。

                   ж

「何処に行っていたの 心配したよ」

雑貨屋に戻ると、いつも皆より早く起きて朝食の支度をしている母親が、湯気の出る鍋をかき混ぜながら振り返った。

「ちょっと散歩を・・・」

そのまま一緒に朝食の支度を手伝ってテーブルに皿を並べながら、アラバマは屋敷について聞いてみた。

「あそこはこの村で一番大きなお屋敷だけど何か特別な家なのですか?」

「ああ あの家は代々祈祷師の家系なのよ。先代が早くにお亡くなりになったけど、娘さんがかなり強い能力を継いでいてね。婿に来た旦那さんは普通の人だったけど、生まれた女の子はきっと母親の血筋を引いていたでしょうね。もう人狼にやられてその血も途絶えてしまっただろうけどねえ」

「祈祷師なのに人狼に殺されてしまったんですか?」

「いえ 一匹は退治したのよ、あの時は群れで襲ってきたからね。人狼というのは何匹かの群れで行動するものだから。1匹に聖水を浴びせて始末した後、他の奴らにやられてしまったのよ むごい話だよ」

                    ж

この聖水であいつを殺せる。

部屋に戻ったアラバマはポケットから小瓶を出して見つめた。
私にはその能力がある。
誰にも倒せない醜いモンスターを殺す能力が。
自由になれるんだ やっと。

そのとき窓の外にウォルフが帰って来たのが見えた。
父親とケイの3人で何かを話している。
父親はうろたえているようだったし、ケイは泣いているようだ。
どうしたのか気になったがそんな事はもうどうでもいい。
アラバマは小瓶を持って外に飛び出した。

つづく
               
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by keropu | 2008-10-10 04:05 | ■小説